歯周病治療

(1)歯周病とは?

知覚過敏の女性

歯を失う原因で最も多いのが「歯周病」(37%)です。(参考:「歯の喪失の原因」e-ヘルスネット
歯周病は虫歯と違い、初期のうちはほとんど無症状で自覚がないままゆっくりと進行するため、歯がグラグラしたり、歯ぐきが急に腫れて痛くなるまで放置されがちです。そして、気がついた時には歯槽骨がほとんど失われ、治療が困難な場合が多いのです。そのため、歯周病は「サイレント・ディジーズ(沈黙の病気)」と呼ばれています。そればかりか、歯周病菌や炎症物質が歯肉の血管から血液に乗って全身を駆け巡り、動脈硬化や認知症など全身の病気や健康寿命にも深く関わっています。

予備軍も含め、成人の約8割は歯周病にかかっていると言われています。歯周病は人類史上最も多い感染症として2001年にギネスブックに認定されているほどです。歯周病菌を含む細菌の数は、よく歯を磨く人でも約1000億個~2000億個、歯磨きをしない人だと1兆億個以上(!)も口の中に存在しています。歯周病の原因となる歯垢(プラーク)は細菌の塊です。

歯周病は、進行度により「歯肉炎」と、さらに病状が進行した「歯周炎」に分類されます。歯肉炎とは、細菌による炎症が歯肉に限局して起きたものです。歯ぐきが赤くなったり、腫れたり、歯ぐきからの出血がある時は、歯肉炎にかかっている場合がほとんどです。小中学生の4割が歯肉炎にかかっているというデータがあります。(厚生労働省「歯科疾患実態調査」)歯肉炎の主な原因は歯が十分に磨けていないことです。将来の歯周病のリスクは適切なプラークコントロールによって減らすことができます。

歯肉炎をそのまま放っておくと、歯周病菌は歯根膜や歯槽骨にまで波及し、深い歯周ポケットを形成します。歯周ポケットに溜まった歯垢(プラーク)に歯周病菌が増殖し、歯ぐきに炎症を起こし、やがて歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていきます。歯槽骨が溶けることで歯がグラグラしたり、咀嚼時に痛みが出てきます。これが歯周病です。
重度の歯周病は歯槽骨が歯を支えることができなくなるほど溶けてしまい、歯がかなりぐらつくようになります。放っておくと自然に歯が抜け落ちてしまうこともあります。

重度の症状が出てから慌てて治療するのではなく、早い段階から予防することが大切です。

歯周病

(2)歯周病の進行と治療法

歯周病は徐々に進行する病気です。初期の段階の「歯肉炎」と進行した「歯周炎」に分類されます。

ここでは5段階に分けて、歯周病を解説します。

1 健康な歯周組織
健康な歯肉健常な歯周ポケットは0.5~2mm と浅く、歯と歯の間にすき間がなく引き締まっています。ブラッシングによる出血はありません。

3~6カ月に一度、定期検診を行い、ご自宅でしっかりとプラークコントロールしましょう。

2 歯肉炎
歯の周囲や表面、歯と歯の間など歯ブラシが届きにくい部分に歯垢(プラーク)がたまり、歯肉に炎症が起きてきます。そのことにより歯周ポケットと呼ばれる小さなすき間ができます。歯ぐきの赤みや腫れ、出血といった症状が起こりやすくなります。この段階では歯を支える歯槽骨は吸収していません。

【治療法】
3カ月に一度、歯科医院で定期的な歯周病の検査、歯垢や歯石を取り除くスケーリング、クリーニング、ブラッシング指導などを受けましょう。同時に、ご自宅での正しいブラッシングや適切なデンタルケアで改善をはかります。

「歯肉炎」の段階であれば、症状を改善し、元の引き締まった歯ぐきの状態に戻すことも可能です。

3 軽度歯周炎

軽度歯周炎歯周ポケットは、4~5mm ほどになり、ポケット内にプラークや歯石がたまり炎症がより強くなります。歯ぐきが下がり、冷たいものがしみるようになる知覚過敏の症状が出ます。歯肉の色が赤みを帯びてきます。歯を支える歯槽骨も吸収し始めます。口臭が気になり始める頃です。

【治療法】
ブラッシング指導、スケーリング、クリーニングに加え、麻酔をしてルートプレーニングを行い歯石を除去します。

4 中等度歯肉炎
炎症が進行して歯周ポケットが5~7mmとさらに深くなります。さらに歯肉が腫れて赤紫になります。歯ぐきが下がり、露出した歯の根元が虫歯になるリスクも出てきます。歯槽骨の吸収が進行、口臭が悪化します。歯を指で押すとブヨブヨして、弱干歯がぐらぐらしてきます。それにより、食べ物が噛みづらくなります。

【治療法】
麻酔をしてスケーリングやルートプレーニングを行い歯石を除去します。数回にわけておこなうため、軽度の時より1度にかかる時間や通院回数が多くなります。症状が重いところは歯周外科治療へ移行する場合もあります。

5 重度歯肉炎
重度歯周炎歯周ポケット内に膿が溜まり、強い痛みが出ることがあります。歯周ポケットは7mm以上になります。歯のぐらぐらが著しくなり、歯肉も全体的に真っ赤もしくは赤紫色になり出血も認められます。放置しておくと、歯が自然に抜け落ちることもあります。

【治療法】
歯を保存できるようであれば歯周外科治療、再生療法を行います。残念ながら、抜歯となる場合もあります。

(3)治療内容

どのような病気もそうですが、早期発見、早期治療が最善です。

いつまでもおいしいものをよく噛んで楽しむためには、ご自身の歯を健康な状態で長く残すことが重要です。多くの歯を失って上手に食べられなくなると、生活の質(Quality of Life)が低下してしまう方が非常に多いのです。
歯周病は歯と歯ぐきの境目に付着したプラーク中の細菌が原因で起こります。つまり、プラークコントロールが最も効果的な原因除去療法なのです。早めに適切な口腔ケアを始めて、歯を失うリスクを減らすことが肝心です。

歯周病は『生活習慣病』の一つとしてあげられ、食生活の乱れ、ストレス、睡眠不足、基礎代謝の低下、喫煙、飲酒等の生活習慣に、発症や進行が深く関わっています。オーバーワーク気味で疲れていたりイライラしていたりすると、自律神経が乱れ免疫力が低下します。そんな時、歯ぐきが腫れたり口臭がしたりする経験がある方もおられるのではないでしょうか。歯肉炎を防ぐには、体の抵抗力を上げて免疫力を活性化させることも重要です。
※詳しくは、◆歯医者さんの歯科コラム◆「歯周病と全身との関係」もご覧ください。

◆ブラッシング指導

患者様自身が毎日行えるブラッシングの効果を上げるために、歯科医師・歯科衛生士によるブラッシング指導を行います。
毎日歯磨きをしていてもしっかり磨けていない場合、歯の表面に付着している歯垢(プラーク)内の歯周病菌を物理的に除去できません。歯ブラシの他に歯間ブラシやデンタルフロスなども使用して効果的にプラークを除去しましょう。歯周病予防にはご自宅での毎日の正しいセルフケアがとても大切です。

歯石除去スケーリング

◆スケーリング

専用の器具を使って、歯肉に付着している歯石を器械で除去します。歯の表面を安全に研磨(PMTC)することによって歯の表面が滑らかになり、プラークや歯石の再付着を防ぎます。この段階で、歯肉炎や軽度の歯周病は改善します。

◆ルートプレーニング

さらに進行しているケースでは、歯根表面に付着した歯石(歯肉縁下歯石)と細菌が出した内毒素が染み込んだセメント質の最表層を除去するルートプレーニングを行います。これによって、歯周ポケットが浅くなり、炎症が軽減されます。当院ではレーザーを用い、セメント質に染み込んだ内毒素を分解させることで早期の治療効果が期待できます。ほとんどの場合はスケーリングと同時に行います。
この段階で、歯肉からの出血や排膿(膿が出ること)は治まり、歯の動揺も改善されます。

◆歯周外科治療

歯周病が進行し、上記の歯周基本治療(プラークコントロール、スケーリング、ルートプレーニング)だけでは症状が改善しない場合は歯周外科治療を行います。歯周ポケットが深くなると、器具が届かず細かい部分まで歯石を完全に取り除くのは難しいからです。歯周外科治療は「フラップ手術」と「歯周組織再生療法」の2つに分類できます。

  1. フラップ手術

    外科的に歯周ポケットの深さを減少させる手術です。歯肉を切開して歯根に付着しているプラークや歯石、バイオフィルムなどをきれいに除去します。その後、歯肉を元に戻して縫合します。レーザー治療を用いて治療促進を図ります。

  2. 歯周組織再生療法

    歯周病によって部分的に失われた歯周組織(歯槽骨や歯根膜など)を再生させる治療法です。現在、様々な方法がありますが、当院の歯周外科治療は骨移植とリグロスを用いた歯周組織再生療法を主に行っています。

歯周病はひとたび罹患すると完治することが難しい病気です。
治療が終わったあとも、再発を防止するために、定期的なチェックとクリーニングが必要となります。来院していただく間隔は歯周病の程度によって異なりますが、健康な歯ぐきの方のメインテナンス間隔が6ヶ月~1年ごとであるのに対して、中等度以上に進行した歯周病にかかっていた方の場合は1~4ヶ月に1回はクリーニングが必要となります。
いくつになっても健康な歯を残しておくために、ご自宅でのセルフケアと定期的な歯科検診の両輪で取り組んでいきましょう。

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