虫歯
「虫歯」(う蝕)について
虫歯ってどんな病気?
虫歯は、お口の中にすむ細菌(特にミュータンス菌など)が食べ物に含まれる糖をエネルギー源にして「酸」をつくり出し、その酸によって歯の表面(エナメル質)や内部のカルシウム成分が少しずつ溶けていく病気です。これを「脱灰(だっかい)」と呼びます。
初期の虫歯では、見た目では分かりづらく、痛みなどの症状もほとんどないため、ご自身では気づきにくいのが特徴です。
ですが、定期的な歯科健診や検査で早期に発見できれば、歯を削らずに、再石灰化(さいせっかいか)という自然な回復が期待できるケースもあります。
虫歯は放置すると進行し、やがて歯に穴があいたり、神経にまで達してしまうこともありますが、早めの対応で「治療」ではなく「予防」できるのです。
虫歯の進行と症状
▼虫歯の原因は「4つの要素」がそろうことから
虫歯の原因は様々な要因が重なって発生します。その要因に大きく関わっている①細菌(ミュータンス菌など)②糖分③歯の質に、④時間の経過が加わって、虫歯が発生します。これは「カイスの輪」とも呼ばれています。
これらのうちどれか1つでもコントロールできれば、虫歯のリスクを下げることができます。
たとえば、歯磨きをしっかり行えば「時間」を短くできますし、食生活を見直せば「糖分」の摂取量を減らせます。

1. 細菌(ミュータンス菌など)
約1μm(1/1000mm)の球状の菌(ミュータンス菌)が歯の表面に付着し、バイオフィルムと呼ばれるねばねばした物質を作ります。このバイオフィルムにミュータンス菌が住みつき、どんどん増殖していきます。これがプラーク(歯垢)です。このプラークの中に潜んでいる細菌が酸を帯び、歯が溶けて虫歯になります。
2. 糖分(甘いもの)
ミュータンス菌は食べ物に含まれている糖分(特に砂糖)を栄養源とするため、甘いものをよく食べる習慣のある人は酸にさらされる時間が長いため、虫歯になりやすくなります。
3. 歯の質
エナメル質や象牙の質の状況によって、虫歯になりやすい人もいます。特に、乳歯や生えたばかりの永久歯には注意が必要です。丈夫な歯を育てるためには、バランスの良い食事を心がけましょう。歯の土台を作るたんぱく質、歯の再石灰化のために必要なカルシウムやリン、そしてビタミンA、C、Dなどの栄養素を意識して摂取しましょう。
4. 時間
食べもののかすが長くお口の中に残っていると、その間ずっとミュータンス菌は酸をつくり続け、歯を溶かそうと働きます。お口の中が汚れたままの時間が長くなるほど、時間の経過とともに虫歯は確実に進行していくのです。
▼虫歯の進行段階と症状
虫歯は、進行によって次のような段階に分けられます。

【C0】初期虫歯(はじめの兆候)
歯の表面が白く濁ったように見える状態。痛みもなく、自覚症状もほとんどありません。歯の表面に白く濁ったような「白斑(はくはん)」が見られることがあり、これは虫歯が始まっているサインでもあります。
ただし、この段階であれば、適切な歯みがきやフッ素塗布、食生活の見直しなどによって進行を止めたり、再石灰化によって回復する可能性もあります。

【C1】エナメル質の虫歯
虫歯のごく初期の段階です。歯の一番外側にある「エナメル質」という硬い層に限って虫歯ができている状態で、この時点では痛みやしみるなどの自覚症状はほとんどありません。

【C2】エナメル質の下の象牙質まで進行した虫歯
虫歯がエナメル質を突破し、その内側にある象牙質(ぞうげしつ)まで進んだ段階です。象牙質はエナメル質に比べてやわらかいため、虫歯の進行が一気に早まります。この段階になると、「冷たいものがしみる」「甘いものを食べると痛む」といった症状が出はじめ、明らかな違和感に気づく方が多くなります。
ただし、痛みがあっても一時的なものであることが多く、「放っておけば治るかも」と思いがちですが、自然に治ることはありません。

【C3】歯の神経にまで達した虫歯
虫歯がさらに深く進み、歯の内部にある「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経や血管まで達した状態です。ズキズキとした強い痛みや、何もしていなくても脈打つような痛みが現れることが多くなります。神経が壊死すると、細菌が根の外で炎症をおこして膿が出ることもあります。
この段階になると、神経を取り除く「根管治療(こんかんちりょう)」が必要になり、治療の回数も時間も増えてきます。また、歯の強度も低下しているため、最終的に被せ物(クラウン)を装着するケースが一般的です。

【C4】歯冠崩壊
歯の大部分が崩れて、根だけが残ってしまった状態です。痛みを感じなくなることもありますが、治ったわけではなく、細菌が広がっている危険な状態です。このまま放置すると、歯の根の先に炎症を起こしたり、膿がたまったりする場合があります。
状態によっては抜歯が必要になるケースもあります。
「大人の虫歯」について
子どもの虫歯と聞くと、「甘いものの食べすぎ」「歯みがき不足」といったイメージが浮かぶ方も多いかもしれません。
しかし、「大人の虫歯」は、子どもの虫歯とまったく異なる特徴と進行の仕方を持っています。
年齢を重ねるとともに、歯ぐきが下がってきたり、過去に治療した詰め物のすき間から虫歯が再発したりと、「気づかないうちに、静かに進行している虫歯」が増えてきます。
お子さまの虫歯については、
別ページ「乳歯の虫歯」にて詳しくご紹介しています。ぜひあわせてご覧ください。
▼歯ぐきが下がってできる“大人の虫歯”
1.根面う蝕とは?
大人の虫歯でとくに注意したいのが、歯ぐきが下がることで露出した「歯の根元」にできる虫歯です。
年齢とともに歯ぐきが少しずつ下がってくる現象を、歯肉退縮(しにくたいしゅく)といいます。
この変化は自然な加齢現象のひとつですが、実はここに、虫歯の新たなリスクが潜んでいるのです。
歯ぐきが下がることで、ふだんは歯ぐきの中に隠れていた「歯の根元の部分(根面)」が露出してきます。
この部分は、私たちが通常目にしているエナメル質の歯の表面とは違い、“やわらかくて酸に弱い”象牙質でできているため、非常に虫歯になりやすいのです。
これがいわゆる根面う蝕(こんめんうしょく)です。
根元の部分(象牙質)はエナメル質に比べてやわらかいため、いったん虫歯になると進行が早く、知らぬ間に神経まで到達してしまうことも。
見た目には分かりにくく、痛みが出るまで気づきにくいのが特徴で、「詰め物の下が黒くなっていた」「歯と歯ぐきの境目に小さな穴があいていた」というケースも少なくありません。
2.根面う蝕が増えている理由とは?
- 中高年層における歯の延命が進み、自分の歯を長く使えるようになった
- 一方で、加齢や歯周病、強すぎるブラッシングなどで歯ぐきが下がる人が増加
- 歯の根元は、フッ素の影響を受けにくく、自己修復能力も低い
こうした背景から、見た目にはわかりにくい“根元の虫歯”が静かに増えているのです。
3.根面う蝕の特徴
- 痛みが出にくく気づきにくい
- 歯ぐきの近くに茶色や黒っぽい変色が見られる
- 進行が早く、神経に達しやすい
- ブラッシング時にしみたり、引っかかったりする
4・根面う蝕の予防
- やさしい圧で、正しいブラッシングを心がけましょう
- フッ素入り歯みがき粉や根面専用のケア用品を使うのも有効です
- 歯ぐきの退縮が見られる方は、定期的なチェックが不可欠です
年齢を重ねた歯ほど、より繊細にケアが必要です。
根面う蝕は、小さな異変のうちに発見すれば、最小限の治療で済ませることができます。
鏡で見える部分だけでなく、歯ぐきのまわりまで含めたチェックを日常に取り入れていきましょう。
▼詰め物や被せ物のすき間から再発する「二次う蝕」
1.二次う蝕とは?
「以前治療した歯だから、もう虫歯にはならないだろう」
そんな安心感に潜む落とし穴が、二次う蝕(にじうしょく)──いわゆる「再発した虫歯」です。
過去に治療した部分が、年月の経過や歯ぎしり、歯のすり減りによって微細なすき間ができることで再び虫歯になることがあります。これを「二次う蝕」と呼び、一見きれいに見えても内部では虫歯が広がっているケースもあります。
2.二次う蝕が起こる原因とは?
治療から数年〜十数年が経過すると、次のような変化が起こり得ます。
- 詰め物や被せ物と歯のあいだに微細なすき間ができる
- 噛み合わせや歯ぎしりなどで歯がわずかに欠ける・変形する
- 接着剤(セメント)の劣化や溶解
- 歯ぐきが下がることで隠れていた部分が露出する
これらにより、見えない場所から細菌が侵入し、歯の内部でじわじわ虫歯が進行してしまうのです。
3.治療済みの歯こそ「要注意」
とくに注意が必要なのは、以下のようなケースです。
- 治療から5年以上経っている
- 被せ物のまわりが黒ずんできた
- 糸ようじや歯間ブラシを使うとひっかかりを感じる
- 同じ場所で何度も治療を繰り返している
- 神経を取った歯で、違和感はないが何となく違う感じがする
このようなサインがある場合、精密な検査が必要です。
レントゲンや口腔内カメラを使って、被せ物の内部や歯の根の状態を詳しく診ることで、ご自身では見えない虫歯の早期発見が可能になります。
4.予防と対策 ―10年後もその歯を守るために―
- 定期的な検診で、詰め物や被せ物の劣化チェックを
- ブラッシングだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシの活用
- 「見た目は大丈夫」でも、内部は劣化していることがあるという意識を持つこと
歯の治療は、「一度終わったらそれで完了」というものではありません。
治療後の歯こそ、定期的なメンテナンスが必要不可欠です。
とくに二次う蝕は、「静かに、しかし確実に」歯の寿命を縮めていきます。
今ある歯をできるだけ長く、快適に保つためにも、再発を防ぐ“次の一手”は、予防から。
ぜひ、半年に一度の健診を習慣にしていきましょう。
▼なぜ大人の虫歯は見逃されやすい?
- 痛みなどの症状が出にくい
- 見た目には変化が少ない
- 「もう虫歯にはならない」と思い込んでいる
- 忙しさで受診が後回しになる
こうした理由から、大人の虫歯はかなり進行してから発見されることも多く、「抜歯しかない」と言われて初めて気づく…という例も少なくありません。
▼大人の虫歯こそ、定期健診が鍵
早期発見・早期対応のためには、定期的な検診と、セルフケアの見直しが欠かせません。
歯科医院では、目に見えない初期の虫歯や、治療済み歯の状態のチェックが可能です。
また、歯ぐきの状態や咬み合わせの変化など、ご自身では気づきにくい「エイジングのサイン」も総合的に診てもらえるのが定期健診の大きな利点です。
虫歯は子どもだけの病気ではありません。年齢を重ねるごとに、見た目では分からない“静かな虫歯”が忍び寄ってきます。
「痛くなってから」ではなく、「今、何も困っていないときこそ」、どうぞお気軽に定期検診にお越しください。
まとめ|歯の健康は「小さな異変に気づくこと」から
「ちょっとしみる」「黒い点が気になる」――それは、歯のSOSかもしれません。
早めのご相談が、歯を守るいちばんの近道です。小さな違和感も、放っておかずにご相談ください。
あなたの大切な歯を、一緒に守ってまいります。
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